2013年3月27日水曜日

iPhoneが、360°回転のダンスを披露するアプリ?!

 『Cycloramic』は、iPhone本体だけで 周囲360°の映像やパノラマ写真を撮影できるアプリだ。iPhone以外の道具は必要ない。「Go」ボタンを押すと、このアプリがiPhoneのバイブレータを制御開始。テーブル上でバランスを取りながら自動回転するのだ。iPhone内蔵のジャイロスコープによる姿勢制御機能と内蔵コンパスによる方位磁針機能を利用。設置面に合わせた最適な振動数を常に割り出ことによって、iPhoneを適切に回転させるらしい。

 このアプリが凄いのは、iPhoneが自立して回転する美しい姿を見せてくれることだ。ぜひ下にインサートした動画でその動きを味わっていただきたい。 その姿は、まるでiPhoneがバレエやダンスを披露しているかのようだ。スリムでスタイリッシュなiPhoneが、その場で自動回転している姿は、それだけで素晴らしいアート。機能性も素晴らしいのだが、それ以上に素晴らしいのは、この自動回転している “姿の美しさ” そのものである。iPhoneが回転する姿を初めて目にする人は、必ず驚くであろう。水平なテーブルの上でなければキチンと回転しないので、カメラ・アプリとしては、使える場面が限られる。だが、この自動回転の動きを見られるだけでも、このアプリを手に入れる価値がある。このアプリは、iPhone5で最も的確に動作するようだ。iPhone4やiPhone4Sでは、うまく動作しないようなので注意が必要。iPhone5とiPhone4やiPhone4Sでは、バイブレータの構造が違うらしい。

本来 iPhone5のバイブレータ機能は、決してパノラマ写真を撮影するために搭載されたものではない。音を発せずに電話の着信やメール受信を知らせるために搭載されているものだ。『Cycloramic』の開発者は、このバイブレータ機能を全く別な目的に使うことを思いついたのである。アップルが世に送り出したiPhone5という “体験” に触発されたクリエイターが、アップルも思いつかないような新しい “体験” を生み出した。あるアイデアが全く別なアイデアを生み出す源となり、連鎖的に新しいアイデアが生み出されて行く。アップルが世に送り出す商品には、このような刺激の源がたくさん詰まっているように感じる。

それは、アップルが “端末” を売っているのではなく “体験” を売っているからだろう。iPhone本体の外見的美しさだけではなく、ボタンの押し心地や材質表面の手触り感、パッケージ開封のプロセスに至るまで、アップルの細かなこだわりが貫かれている。端末という物体そのものだけではなく、それら全てを総合したものがアップルの売っている商品だ。iPhone5の回転する姿、それ自体を美しいと感じるのは、それがアップルの哲学と非常にマッチしているからだろう。『Cycloramic』というアプリの商品価値は、それによって仕上がった映像や写真という結果に存在するのではない。美しく自動回転する動作とプロセス、それを目の前で “体験” できるところに存在するのだ。あくまでもカメラ・アプリなのだから、普通なら、それによって撮影される映像や写真の色調、解像度などのスペックに考えが縛られそうなものだ。撮影するプロセス、体験それ自体に商品価値を発生させてしまうのは、アップルとクリエイターの「美しくて幸せな共犯関係」がなせる技ではないだろうか。アップルの生み出す “体験” には、クリエイターの脳みそを刺激する魔法がたくさん詰まっている。

                                               YouTubeで公開されている『Cycloramic』のデモ映像


2013年3月21日木曜日

「アップル神話」は崩壊したのか?

 アップルの株価下落が話題となった。ピーク時に700ドルを超えた株価は約4割も下がり、株式時価総額・世界1位の座をエクソンモービルに明け渡したのだ。アップルの成長性に疑問符が付き、市場の評価はガタ落ちだ。およそ1年前には「1年以内に1000ドルを突破する」と主張するアナリストがいた。何とも予想とかけ離れた状況になったものだ。ただし私には、株式市場のアップルに対する評価は加熱し過ぎていたように思える。異常なまでの熱狂ぶりだったのではないか。

 アップルに対する市場の評価が落ちている最大の理由は「成長のシナリオ」が見えないという事だろう。“iPhone5” や “iPad mini” など既存商品の発展形はあるものの、これまで見たこともない全く新しいアイテムが、ここしばらく発売されていない。競合他社は、アップルが切り開いた新しいジャンルで、より高性能な商品をより低価格で発売すれば高い評価を得るのかもしれない。だがアップルは、そういう訳にはいかない。iPhoneやiPadというハードが如何に高度化し続けても、世界はガッカリし続けるだろう。アップルが、あっと驚く新しい “体験” を提供してくれることを、世界は望んでいる。その “体験” は、全く新しいデバイスかもしれないし、iPhoneやiPadを内包した画期的な新サービス・システムかもしれない。アップルは、画期的なイノベーションを引き起こし、全く新しい体験価値を創造する事を常に求められている。市場が期待しているのは、単に売上高や利益率がアップする事ではない。考えてみれば、これは相当にレベルの高い要求だ。アップルだからこそ、このような結果を期待されてしまうのだろう。アップルは、これまでに次々と革新的な商品を世に送り出し、人々のライフスタイルを何度も何度も変えて来た。

  アップルが次に発売するアイテムとして噂されているのは、アップル流の薄型テレビである『iTV』、アップル流のカーナビ『iNavi ( ? )』。そしてアップル流の腕時計『 iWatch』など様々なものがある。その他にも、『iCamera』、『iGlasses』、『iCar』などが登場する可能性もある。アップルがiPhoneで電話を再発明したように、腕時計やカーナビ、そして車を再発明したら、一体どんなものが出来上がるのだろう。きっと根本的な概念から再構築し、ライフスタイルの変革を目指すのだろう。

 直近で登場しそうなのは『iTV』である。 もしかしたら今年後半にも登場するかもしれない。「アップル神話」の崩壊が始まっているのかどうか…  それは、そう遠くない時期に自ずと見えて来るのかもしれない。アップルがこれまで通り、革新的な商品を世に送り出し続けるのは相当に難しいだろう。しかしアップルのように “変な” 企業が消え去ってしまうのも、チョッと寂しいものだ。アップルは、誰もが見放したかのように思えた “タブレット端末” に手を出し、活気のある市場へと蘇らせてしまう企業だ。トム・ソーヤーやハックルベリーのように、冒険好きな奴もいないと…  世の中は楽しくない。

2012年10月8日月曜日

iPadのマップ上で、“東京タワー” が凄いことになっていた。

 アップルの純正地図アプリが、世界中で話題になっている。その完成度に問題があるからだ。この地図アプリで“東京タワー”の3D表示をすると、凄いことになっていた。東京タワーがまるで、高層ビルのような姿になっている。あるいは、何か大がかりな工事用の覆いで包まれているかのようだ。大改修工事のために、こういう四角い覆いで囲まれた姫路城や東本願寺の映像をTVで見たことがある。アップルは、最新のOS「iOS6」からGoogleマップと決別し、独自開発の地図アプリを標準搭載するようになった。この地図アプリは、世界中で批判にさらされている。都市やランドマークの名前が明らかに間違っている、農場を空港と取り違えている…などなど、様々な不満の声が聞こえて来る。

 実は、アップルの純正地図アプリで “東京都庁”を見ると、なかなかリアルな形状をしている。どうやら東京タワーのモデリングは、まだ間に合っていなかったようだ。このような複雑なモデリングをするのには理由がある。アップルの地図アプリは、リアルな3D表示を目指しているのだ。Googleマップもアップルのマップも、リアルな3D表示を最終的に目指しているようだ。ただし、Googleの方がマップのデータ構築に関しては、遥かに先を行っている。Googleマップの登場から、7年以上が経過。Googleマップを担当する従業員は、7千人を超えるそうだ。アップルが、これに追いつくには相当な努力が必要だろう。それでもアップルは、独自の地図アプリの開発にこだわった。

 
< アップルの地図アプリで、ロンドン上空を旅する。

 アップルの地図アプリは確かに問題だらけだ。情報も少ないし、間違った表記もある。だから私は、Webブラウザを通してGoogleマップを使用する。Googleマップは標準搭載されなくなったが、ブラウザを通せば利用できる。このさいGoogleマップ以外の地図アプリもじっくり吟味することにした。Googleマップ以外にも、多様な地図アプリが存在する。それでも私は、アップルの地図アプリをチョっと気に入っている。まずエンター テインメントとして楽しい。このアプリによって、ロンドンやニューヨークを空から眺めてみた。写真に荒削りなところもあるが、世界観が美しくて、とっても楽しめる。まるでピーターパンになったような気分だ。

 アップルは未完成の地図アプリを世に送り出し、ユーザーのフィードバックによって完成度を高めて行く道を選んだ。未完成であることは承知の上でリリースしたはずだ。今回アップルが下した決断は、根本的に間違っていたのか…  それは今しばらく時が経てば自ずと結論が出るだろう。ただし基本的な誤表記を、もっと修正してからリリースするべきだったということは疑いようがない。それでもCEOが迅速に謝罪し、代替となる地図アプリを速やかに提示したことは、評価して良いと思う。近頃は、こういう謝罪の意を素直に表明できない企業が多いように感じる。

 この問題の行く末を、これからも注視して行こうと思うのだが。全ては、アップルが今後、どの程度のスピード感で地図を修正していくか…  に、かかっている。一つだけ確実に言えることは、通常の企業であるならば、もっともっと苛烈な批判にさらされていたであろう、ということだ。アップルという企業は、不思議な企業だ。今回の地図アプリでも、間違い探しを楽しんでいるような人々まで現れた。他の企業にはない独特の魅力がアップルにはある…  と感じる人々が存在することも間違いないようだ。

2012年9月5日水曜日

動物園のオランウータンが、「iPad」に熱中している… というお話。

 アメリカとカナダの動物園では、オランウータンがアップルの「iPad」を使って、アプリを楽しんでいるそうだ。『類人猿のためのアプリ』というプロジェクトの一環として、オランウータンの遊び時間にiPadを導入するという試みが行われている。iPadを導入しているのは、アメリカとカナダの12の動物園。このプログラムを運営するのは、「オランウータン・アウトリーチ」。ニューヨーク市を拠点とする非営利団体(NPO)だ。このプログラムは、中古のiPadを提供してもらったり、寄付金を募って運営されているようだ。

 オランウータンは週2回、iPadに触れる。そして、1回当たり15〜30分ほど様々なアプリを動かす。オランウータンが最も熱中するのは、人間の子供向けに作られた知育アプリだ。無料のお絵かきアプリやドラム・アプリで遊び、他のオランウータンの映像も熱心に見たりする。マイアミのジャングル・アイランド動物園のオランウータンは、コミュニケーション用のアプリを使って、人間と意思疎通する。例えば飼育員がiPadのアプリ上で何かの操作をすると、それに答えてオランウータンが反応し、それに対応するボタンを押す。その結果、人間とオランウータンとの会話が成立するのだ。オランウータンたちはiPadを使って、見慣れた物を識別し、自分の欲求や必要なものを表現するのである。以前に、手話をするゴリラが話題になった。今や霊長類のオランウータンが「iPad」を使う時代になったのだ。

 オランウータンにとっては、手話を覚えるよりもiPadの操作方法を覚える方が簡単なのかもしれない。オランウータンはDNAの97%が人間と共通であり、チンパンジーと並んでヒトに次ぐ高い知能を持っている。手話や道具を使ったり、鏡に映った姿が自分だと認識できる。このプログラムの目標は2つ。オランウータンに充実した活動を提供すること。そして、来園者に絶滅の危機にあるオランウータンの保護活動について興味を持ってもらうことだ。iPadを使うオランウータンを見るために、ジャングル・アイランド動物園には大勢の来園者が集まる。同動物園のトリシュ・カーンは、「絶滅の危機にひんしているからこそ、人々とオランウータンが接点を持つことがとても重要。オランウータンがこういった素晴らしい適応力と深い心を持っている驚異的な動物であることを人びとに知ってもらうことが私にとって最も重要なことだ」と語る。

 動物に電子機器を操作させることについては、賛否両論分かれるところだろう。しかし、この話からハッキリと分かることがある。「iPad」はオランウータンでも使えるほど、操作方法がシンプルであるということだ。Windowsパソコンをオランウータンに操作させるのは、ほとんど不可能だろう。iPadだから、こういう話になるのである。もうひとつ、この話から分かることがある。 iPadは、オランウータンの保護キャンペーンに使われるほど、ポピュラーで象徴的なデバイスであるということだ。多くの人々がiPadに興味を持ち、それまでのコンピューターとは少し違う道具であると知っている。だからこそ、オランウータンがiPadを使うという話に興味を持つし、なんらかの共感を呼ぶのだろう。誰もiPadに興味を持っていなかったら、このキャンペーンが成り立たない。

 スティーブ・ジョブズは生前、「一目見て、それが何をしてくれるのかを理解できるようにしろ」と言ったそうだ。 iPadに熱中するオランウータンの話を聞いたら、ジョブズはさぞかし喜ぶことだろう。将来は、オランウータンが「FaceTime」を使って、世界中の他のオランウータンとコミュニケーションをとるようになるのかも…。「Facebook」や「Google+」にまで、オランウータン用のユーザーインターフェイスが登場したりして…。




2012年8月20日月曜日

泥棒が盗んだ“ジョブズ愛用のiPad”を、何も知らないピエロが使っていたというお話。

 現在改装中の、故スティーブ・ジョブズの邸宅。今はジョブズの家族も不在だ。生まれて初めて“空き巣”を試みた男は、ジョブズの邸宅とは全く知らずに、そこへ盗みに入った。盗んだものは、ティファニーのジュエリーやアルマーニの腕時計などなど。その中には、3台のiPadも含まれていた。彼は盗んだiPadの中の1台を、高校時代の恩師に贈った。何も知らずにジョブズ愛用のiPadを受け取ったその人物は、泥棒をした男が高校生だった時、バスケットボール部のコーチだった。

 空き巣をした男の名は、カリエム・マクファーリン、35歳。金に困り空き巣を実行したという。盗まれたiPadを贈られたのは、ケネス・カーン、47歳。現在は、サンフランシスコの街頭などで曲芸をしている、プロフェッショナルの“ピエロ”らしい。カリエム容疑者とは、高校時代からずっと付き合いがあった。この、ピエロのカーンによれば、容疑者からは何の説明もなかったそうだ。「新しいiPadを買ったから、古いiPadをくれるのかな…」ぐらいにしか思わなかったという。このピエロは、とりあえず「ピンクパンサーのテーマ」をiPadにダウンロードして、曲芸の際にその音楽を流していた。数日後に、このピエロのところへ警察が来てiPadを没収。そこでピエロは、初めて、ジョブズ愛用のiPadだったと知るのだ。

 「まるでジョー・モンタナの家から盗まれたフットボールをもらうような話だ…」
故スティーブ・ジョブズ愛用のiPadで「ピンクパンサーのテーマ」を流し、曲芸という仕事に邁進した事を、ピエロは感慨深げに回想したという。マクファーリン容疑者は、2012年8月2日に逮捕された。ジョブズ邸で盗んだMacをインターネットにアクセスさせたら、セキュリティシステムが作動し居場所がバレたのだ。

 この話から2つの事が分かる。1つは、「iPadは、泥棒が盗みたくなるような魅力を持っている」という事だ。 もう1つは、「iPadは、その愛用者ならではの個性を感じられるデバイスである」という事だ。邸宅には、さぞかしアップル製品が多く存在したはずであろう。泥棒は、なぜジョブズの邸宅だと気付かなかったのだろう。ジョブズから盗んだMacでインターネットにアクセスしたら、どう考えてもすぐに足がつきそうなものだ。どうしてもMacやiPadを動かしたかったのだろうか…。我慢できなかったのだろうか…。iPadを贈られたピエロは、後からジョブズ愛用のiPadだと知って、感慨深げだったという。“ジョブズ愛用のiPad” という概念が、彼の中に特別な感情を呼び起こしたのだ。ジョブズ愛用のiPadには、どんなアプリが入っていたのだろうか。ジョブズはどんな音楽をiPadで聴いていたのだろう。ジョブズは、アイコンを、どんな風に並べていたのだろう。やっぱりSmart Coverを装着してタッチパネルを保護していたのだろうか。だとすれば、どんな色のSmart Coverを使っていたのだろう。私も、一度、スティーブ・ジョブズ愛用のiPadを見てみたいものだ。

 前回の投稿でも触れたが、iPadを操作するという行為には、独特の“手触り感”がある。アクセサリーにこだわって、自分だけのiPadを育てて行くのは楽しいものだ。自分好みのアプリをインストールして、自分好みの配置に整理して行く。これがiPadの楽しさである。iPadは、使えば使うほど、その愛用者の個性が反映されて行くのだ。スティーブ・ジョブズが愛用していたiPadには、彼ならではの個性や味が反映されていたに違いない。でも、ピエロが自分好みのアプリをインストールして自分好みのiPadに育て始めた瞬間に、それはジョブズのiPadではなくなってしまった。事前に知っていれば、ピエロは“ジョブズのiPad”をじっくり味わったことだろう。

 iPadは確かに工業製品であり、大量生産される、規格化された電子デバイスである。一見すると冷たい印象もあり、個性など存在しないガラスと金属の板きれのように思われるかもしれない。紙に印刷された本の方が、よっぽど温かみがあると思われるかもしれない。しかし、“ジョブズのiPad”だったのだと後から知って、感慨に浸ってしまう…。iPadとは、そういうものなのである。

2012年8月5日日曜日

文庫本の“手触り感”と、iPadの“手触り感”。

 紙の本を読むという行為には、独特の“手触り感”がある。指先に伝わる紙の感触。鼻に伝わる紙の臭い。ブックカバーに対する自分なりのこだわり。iPadを操作するという行為にも、独特の“手触り感”がある。アクセサリーにこだわって、自分だけのiPadを育てて行くのは楽しいものだ。

1. ブックカバーとSmart Cover

 私は、外出時に生まれる隙間の時間に、文庫本を読むのが好きだ。だから文庫本用の本革ブックカバーを持っている。ソフトレザーは使い込むほどに手に馴染みやすく、本の厚みに合わせてフィットさせやすい。扱い方も簡単で、値段もリーズナブルだ。本を汚れから守る事もできるし、“しおり”がカバーと一体化しているので、即座にそれを挟む事ができる。しおりを失くす事もない。私はiPadでもカバーを使用している。アップルの“Smart Cover”だ。これでiPadのタッチパネルを守る事ができる。Smart Coverには、ポリウレタン製と革製(イタリア製レザー)のものがある。私が使っているのは、グレー色のポリウレタン製カバーだ。マグネットの力で、即座に定位置に装着できるし、表面の手触り感もいい。覆うのは前面のタッチパネル側だけなのだが、その代わり本体背面の手触り感を楽しむ事ができる。iPadの背面には、陽極酸化処理というアルミニウムの表面処理が施されている。金属のマットな輝きは失われないが、サラリとした質感で指紋が付きにくい。金属のヒンヤリした温度が指先から伝わるのも心地良い。(負荷のかかる作業を長時間続けると、ほのかに温かくなる事もあるらしい。)Smart Coverは、10色から選べる。色によっては、汚れが気になる方もいらっしゃるかもしれない。私のカバーは薄いグレー色だが、今のところ特に汚れは気にならない。私は、ブックカバーにもiPad本体背面にも名前を刻印している。自分が好きな言葉を刻印するのも楽しいかもしれない。世界中でただ一つ、自分だけのオリジナルカバーやオリジナルiPadの誕生だ。

2. 紙の感触とタッチパネルの感触

 私は文庫本をめくる時の紙の感触が好きだ。もともとグラフィックデザイナーなので、紙にはこだわりもある。年月を経た本の紙は、黄色味が増して来るが、それもまた味。 読み進めていくうちに、しおりの位置が徐々に後ろへとズレていくプロセスが好きだ。どれくらい読み進めたのか視覚的に一目で分かる。実はiPadでも、タッチパネルに指先で触れる時の感覚が大切だ。私はiPadのタッチパネルに保護シートを貼っている。保護シートには、光沢(グレア)タイプと非光沢(アンチグレア)タイプがある。私が使っているのは光沢(グレア)タイプだ。光沢タイプは、液晶画面の鮮明さを損なわない。非光沢タイプは指紋が付きにくいのが特徴だが、画面の鮮明さを損なうように思える。私が使用しているのは、防指紋・光沢機能性フィルムである。光沢性を保ちながらも、指紋が付きにくいのが特徴だ。指先が少しひっかかる気もするが、それがまたいい。iPadの画面上でスクロール操作を指で行う時、タッチパネルを保護するシートの感触によって操作感が左右される。私はiPadでスタイラスペン(タッチペン)も使う。私のペンは保護シートに全くひっかからない。こういう微細な感触が重要だ。違和感のあるまま長時間使い続ける訳にはいかない。この保護シートは、完璧ではないが指紋も付きにくいと思う。こびりついた指紋を落とすには、アルカリイオン洗浄水でシート表面をクリーニングするのも良い。デジタル機器なのに、ちょっとアナログを感じる世界だ…。

3. 本棚の整理とアイコンの整理

 私は定期的に、本棚を分類・整理し直すのが好きだ。小説やノンフィクションといったジャンルで並べ直したり、カバーの色合いで並べ直したりする。カバーの色合いで並べ直すと、本棚が華やかになる。直近に読み直したい本だけを並べるコーナーを、ジャンルに関係なく片隅に設けたりする。本棚における本の並べ方によって、その人の個性を感じたりするし、どの本を手に取りやすくなるかまで影響すると感じている。本棚の整理は、自分の手を使って行う作業なので、これも本の“手触り感”の一部分である。iPadでもアプリのアイコンを整理する事は重要である。私は定期的に、アプリのアイコンを分類・整理し直すのが好きだ。その時の気分によって、色合いで並べ直したり、新しくフォルダを作ってジャンルに関係なく整理し直したりする。これも各ユーザーの個性が表出するところだと思う。iPadの場合、アイコンの整理や削除も指先で操作する。アプリの配置によって操作性も決まるし、何より自分らしいiPadを生み出す事ができる。アプリがなければ、iPadは、ただの持ち運べるディスプレイである。自分好みのアプリをインストールして、自分好みの配置に整理して行く。これがiPadの楽しさであり、これも指先で行うので、iPadの“手触り感”の一部分なのである。


 私は紙の文庫本を読むのが好きだ。これからも文庫本を手にし続けるだろう。一方でiPadを動かすのも楽しんでいる。それはiPadでしか味わえないアプリがあるからだ。「元素図鑑」や「お江戸タイムトラベル」は、iPadのようなタブレット端末でこそ最大限に味わえるエンターテインメントである。それらは、自分の指先を最大限に使って楽しむ新しいメディア上で動くものだ。iPadは、本体の素材や表面加工を徹底的に考えて設計されている。iPadに触れた時の、手の感触を非常に重視しているのだ。ユーザーインターフェイスも徹底的に計算されたデザインだ。指先で操作するための様々な工夫が施されている。私は紙に印刷された書籍を、単に電子化しただけの電子書籍を読むためにiPadを購入した訳ではない。iPadと電子書籍専用端末は、根本的に異なるものだ。電子書籍専用端末の“手触り感”は、今一つ見えてこない。電子書籍専用端末に関しては、これからも注視を続けて行こうと思う。

2012年7月20日金曜日

アップルのブランド構築。<シンプル>を貫く哲学。

 あのiMacは、最初『マックマン(MacMan)』という商品名で発売されそうになった。ソニーのウォークマンを連想させる商品名。今となっては驚くべき事だが、スティーブ・ジョブズは、わざとソニーを連想させるような商品名にしようとした。これにストップをかけたのが『iMac』という商品名を生み出したクリエイティブ・ディレクター、ケン・シーガルだ。ケン・シーガルは、 アップルの「Think Different」キャンペーンに携わり、「iMac」と命名した伝説的クリエイティブ・ディレクター。 今回ご紹介する本は、ケン・シーガル著 『Think Simple アップルを生み出す熱狂的哲学』(林信行:監修・解説  高橋則明:訳)。アップルとジョブズが、如何に「シンプル」という哲学にこだわっていたかを、著者ならではの実体験を交えて解説した書籍である。著者ケン・ シーガルは、デル、IBM、インテルなどの広告キャンペーンも担当していた。ジョン・スカリーがCEOだった時代のアップルも担当している。それらを総合的に比較評価できる人物なのである。彼はアップルと他のライバル企業を比較し、アップルの昔と今を比べる事もできる。なぜ『マックマン(MacMan)』という商品名を止めて、『iMac』という商品名を採用したか。その経緯も、この書籍に述べられている。

 この書籍では、ジョブズとアップルが、様々な局面で<シンプル>を追求する姿が述べられている。会議、広告、ネーミング、パッケージ、ウェブサイト、ブランド・イメージなど様々な要素が具体的な事例と共に登場。著者によれば、「<シンプル>を追求するアップルの姿勢は、他の企業では見られないレベルであり、単なる熱中や情熱を超え、熱狂の域にまで達している」そうだ。それは、ジョブズから始まった事だが、いまやアップルという企業のDNAに深く刻み込まれているという。意思決定プロセスや製品コンセプト構築において、無駄を省きポイントを絞り込む重要性は、誰でも思いつく事だ。ところが実際に行動に移すとなると、とたんに難しくなる。アップルは、<シンプル>を貫くという哲学を、組織として体現しているからこそ傑出した印象を残せるのだ。なぜアップルでは、このような事が組織的に可能となったのか。私は、この書籍を読んで、スティーブ・ジョブズのリーダーシップが重要な力であったと痛感した。この書籍を読むと、“リーダーシップとは何か?”を深く考えさせられる。

 野球でもサッカーでも、勝利を掴み取るにはチームワークが重要だ。 個別のメンバーが好き勝手に行動したり、モチベーションが低くては勝利など覚束ない。アップルのような巨大企業でチームワークを維持するのは、なおさら難しいだろう。かの「Think Different」キャンペーンは、一般の消費者だけではなく、アップルの社員もターゲットにしていた。著者によれば、絶滅の危機に直面している企業は通常、生き続けるために何でもする。しかし大抵、ブランド確立キャンペーンの費用捻出はそこに含まれない。ジョブズが復帰したときのアップルは、まさに絶滅の危機に直面していた。そのような状況で、ブランド確立キャンペーンに相当な資金を投入するのは、確かに図太い神経だ。メディアから辛辣に叩かれ、迷走する経営に疲弊し、アップルの社員は目標と士気を失っていた。アップルに復帰したジョブズは、「Think Different」キャンペーンによって、社員に“目標”と“誇り”を取り戻そうとした。「Think Different」という言葉は、アップルの本質を表現し、顧客の琴線に触れた。そして社員には、閧(とき)の声となった。通常の思考を踏み越えてこそ世界を変えられる…。「Think Different」キャンペーンのCMは、今見ても心を揺さぶられる何かを感じる。ジョブズが亡くなった今となっては、なおさらだ…。

 スティーブ・ジョブズの経営スタイルは、マイクロマネジメント。プロダクト・デザイン、基盤設計、OSの操作性、マーケティング、広告メディアの選択など、ありとあらゆる細かい要素について情報を吸収し、スタッフに意見を投げかける。いわゆるMBA(経営管理修士)的な経営スタイルは、「大局的に経営状況を把握し、細々としたプロセスは各部門長に任せる」というものだろう。ジョブズのスタイルは、明らかにこれとは対極にある。ジョズブは細かい情報も把握し、同時に大局的な視点も失わない。歴史に名を残す映画監督の仕事ぶりを思い出す。まるで、黒澤明を見ているかのようだ。巨大企業の複雑な組織は、放っておくと必ず“混沌”が蔓延する。ハッキリとした指針を示し、細かい情報を把握した上で、余分なコンセプトや機能を削ぎ落す。組織にはびこる“複雑さ”、“混沌”を取り除く。これがジョブズのリーダーシップだと思う。

 スティーブ・ジョブズは、次のように語っていたそうだ。

イノベーションをするときに、ミスをする事がある。最良の手は、すぐにミスを認めて、イノベーションの他の面をどんどん進める事だ。

  ジョブズは、“真に優秀なスタッフ”を見抜く力を持っていた。彼らの言葉には、真摯に耳を傾けた。熟慮の末、自分が間違っていたと気づけば、素直に彼らの意見を取り入れた。決して頑に自分の意見を押し通し続けた訳ではない。ジョブズは、自分の間違いを認める「強さ」と、大改革に挑む「心意気」を持っていたのだ。今の日本は、あらゆる業界とあらゆるシステムが変革を求められている。ジョブズの語った言葉の意味を噛み締める事には意味がある。

         
                                    
                                                         「Think Different」キャンペーンCM


                                  
                                                                           iMac CM