2012年5月18日金曜日

音楽クラウドが、日本でサービスを開始出来ない理由。(その2)


 クラウド型音楽サービスは、大きく2つに分類する事が出来る。オンラインストレージ系の音楽サービスと、ストリーミング系の音楽サービスだ。日本において、これらのサービスは、まだ本格的なスタートを切れない。この状況を打破するキッカケは、ミュージシャン自身の意志の力だと、私は考えている。

 オンラインストレージ系の音楽サービスは、「iTunes in the Cloud」や「Google Play Music」が代表的だ。 ユーザーは、手元にある音楽データをクラウド上に保存し、iMacやiPhone、iPadなどのデバイスから自由自在にアクセス出来る。“iTunes Match”という機能は、まず、ユーザーが持つ楽曲のリストと、iTunes Storeで販売されている楽曲のリストを突き合わせる。iTunes Storeで販売されていない楽曲だけを、クラウド上にアップロードするのだ。ユーザーは、データをアップロードする時間を、大幅に節約出来る。iTunes Storeで販売されている楽曲は、自分の音楽データをアップロードする代わりに、iTunesで販売されているデータをダウンロードする権利が与えられる。“iTunes Match”でクラウド上に保存した音楽データは、Macからはストリーミング再生もダウンロードも可能。iPhone、iPadからは、データをダウンロードした上で再生可能となる。“iTunes Match”のサービス利用料は年間24.99ドル(約2000円 -2012年5月現在- )だ。

 ストリーミング系の音楽サービスは「Pandora」や「Spotify」が代表的だ。まず、「Pandora」は、好みの音楽を分析し、ピックアップしてくれる機能が備わった音楽の配信サービスである。個々の曲について、音調、リズム、楽器、音楽スタイルに関連する約450の基準で分類されている。ユーザーが、自分の好きな曲やアーティストの名前を「Pandora」に入力すると、自分の好みと思われる様々なアーティストの曲を集め、ストリーミング配信してくれる。音楽の分析は、一曲一曲に対して個別に行われるので、アーティストや音楽ジャンルといった従来の分類では見つけにくかった曲も発見出来る。既に100万近くの楽曲をデータベース化している。次に、「Spotify」は、1600万曲が聴き放題の音楽配信サービスだ。「Spotify」は、ソーシャルネットワーク機能が充実している。詳細ページには、そのユーザーがよく聴くアーティストや楽曲、お気に入りとしてマークした楽曲、作成したプレイリスト、フォローしているプレイリストが表示される。これで、友達同士の音楽的世界観を完全共有して楽しむ事が出来る。「Spotify」は、「Facebook」と連携しているサービスだ。

 「Pandora」も「Spotify」も、有料プランは存在するが、基本は無料で楽しめるサービス。広告の表示を受け入れれば、無料で100万曲や1600万曲といった単位の楽曲を自由に聴く事が出来る。「iTunes in the Cloud」において、クラウドを通じて聴けるのは、所有する楽曲に限られる。しかし「Pandora」や「Spotify」では、100万曲や1600万曲が聴き放題なのだ。こんなサービスが普及したら、CDの売上枚数は、さらに減るだろう。「Pandora」や「Spotify」 が、単なる音楽ストリーミングサービスと違うところは、クラウドを通じパーソナライズされる事だ。溢れるような音楽の大海原から、自分好みの音楽を見つけ出す冒険。音楽を通じて拡がる交友関係。この楽しさは、インパクトがある。これまでの様に大手レコード会社から、一方的に音楽を売り込まれる訳ではない。音楽業界は、大きな転換期を迎えている。音楽の聴き方、販売方法、物流、収益の上げ方は大きく変貌しつつある。そして、音楽の存在意義が問われている。

 前回述べた通り、これらのクラウド型音楽サービスを日本で開始するためには、複雑な権利問題をクリアしなければならない。しかし、大手レコード会社は、なかなか機敏な動きを見せない。今こそ、ミュージシャン自身が、従来の常識に捕らわれず積極的に次の段階へ踏み出す時だ。例えば、スガシカオ。彼はプロダクションやメーカーに依存するのではなく、アーティスト自らが発信して行く事を決意し、プロダクションから独立した。例えば、ザ・クロマニヨンズ。彼らは、アナログ盤を主体に音源を制作している。アナログ盤を前提に音を創り、CDは副次的なものだ。アナログ盤ならではの音の響きを追求している。故に彼らの意図する音楽を、本当に味わいたいなら、アナログ盤を響かせるしかない。アナログ盤自体は、ユーザーが簡単に複製・配布出来るものではない。アナログ盤には、独自の付加価値が発生する事になる。

 もはやミュージシャンは、旧来のレコード会社と組まなくても、音楽を直接ユーザーに販売出来る。CDジャケットに代わるヴィジュアル・データと音楽を統合的にデザインして、iPad用のアプリとして配信する事も可能だ。ブログで直接、作品情報を発信し、ソーシャルネットワークで音楽ファンとコミュニケーションを図る事も出来る。インターネットを通じて、アナログ盤を全世界に販売する事も可能だ。日本の音楽業界を変革する重要な力は、音楽に対する限りない愛と情熱に溢れた、ミュージャン自身の意志ではないか。レコード会社が動くのを待っていては、手遅れになる可能性がある。

音楽クラウドが、日本でサービスを開始出来ない理由。(その1)

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